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2023年12月1日 NHK BS「こんどこそ、君と!! ~小田和正ライブ&ドキュメント2022-2023」放送

ツアーとは何かを押さえたドキュメントと、饒舌な小田和正


 NHK BS『こんどこそ、君と!! ~小田和正ライブ&ドキュメント2022-2023』を改めて観ての感想である。

 まず“ライブ&ドキュメント”という言葉に反応させて頂くならば、“ライブ&ト-ク&ドキュメント”という印象であった。小田のステ-ジ上でのMCや楽屋でのインタビュ-が、時には副菜というより主菜として機能する構成だったからだ。

 なので“ライブ”ということへの期待値から言えば、「もっとじっくり音楽を聴かせてよ」みたいなことも言えそうではあったけど、そもそも最初から、こういう方向性で編集された番組だったのだろう。

 素材は豊富だったと思われる。本紙398号のNHK金澤知子プロデューサーの原稿によると、「49公演におよぶツアーを複数のカメラマンが様々な角度から撮影することから」スタートしたそうである。全公演だったなら、なかなか昨今のテレビ局を巡る状況からいって、NHKにしか為し得なかったことかもしれない(詳しいことは知らないのだが…)。

 それに加え、小田の事務所はご当地紀行など含め、本人の至近距離でカメラを回し続けているわけであり、つまり素材の豊富さということでは、文字通りだったと推測されるわけだ。

 でも逆に、たくさん有れば良いというものでもないのが編集作業というものの常である。僕の場合、作業といってもアーティストの喋りを文字にするだけではあるが、3時間も4時間もインタビューしてしまうと、あとで後悔したりということがある(バイオグラフィーを時系列に沿って訊ねる、みたいな場合を除く)。それは映像であっても同じだと思うのだ。

 しかしこの場合、「お見事!」と言いたくなるほどまとまりある内容である。基本的にはツアーの時間軸に沿った構成なのだが、どのように準備されていくのかなども垣間見れた。メンバーと小田によるコーラス練習といったことが、日程の最初のほうに行われていることも、ちゃんと示されていた。

 番組の冒頭の映像は小田の背中だ。この演出はベタといえばベタだし、もし40代でこれをやっていたらわざとらしい印象になったかもしれない。しかし75歳の小田の背中…、ちょっと丸みも加わったその姿は、いきなり多くのことを語りかけてきた。僕は、いきなり心にジワリとこみ上げるものを感じた。そのジワリがどういう成分だったのかを言葉にするのは難しいが。

 やがて「こんど、君と」を歌い始めた時の、手拍子を誘う小田の手のポジションが、さりげなくマイクが音を拾わない場所であったこと、湧き上がった会場のみんなの声を、30センチほど人差し指を上下させコンダクターのように操ろうとする姿。もちろんコロナゆえ、歌唱は控えるようお願いされていた観客達だったが、みんなはマスクのなかで歌っていたのだ。

 それも終わり、客席に会釈する時は、上半身を前に倒し、同時に足は少し引きぎみにした。その所作からは、自分の歌を聴きに来てくれた人々への敬意が伝わってきた。以上の描写が番組のアタマのシーンである。

 いざツアーがスタートすると、ピリッとした緊張感も画面から伝わってくる。その際、初日の福島へと、小田が自らハンドルを握り、高速を走るシーンが映されていた。もしやこれ、恒例のことなのだろうか?マイクロ・バスの後部座席といった、“保護された”環境での移動を想像していたので、意外といえば意外であった。慣れてきたツアー中盤戦とかならいざ知らず、なにしろ初日のことなので…。

 その後、ツアーのライブ映像や、途中に挟まれる楽屋などでのインタビュー、さらにご当地紀行からの映像などが、上手に関連づけられ、番組は進んでいく。

 インタビューを担当しているのはカメラマンの西浦さんであり、この人の特徴として、取材で用いられがちな常套的な“質問言葉”ではなく、西浦さんの思想が乗っかった感じの訊ね方をする。単に昔からの小田の仕事仲間だから成立する両者の関係ではなく、小田も彼からの質問を、そのつど楽しみにしているフシが伝わってきた。

 ライブの場面で印象に残った会場を挙げるなら、やはり長めの尺となっていた2022年7月の「さぬき市野外音楽広場テアトロン」だろう。何度か小田のライブも行われてきた場所だが、これまでで最高の観客動員だったらしく、海を臨むすり鉢状の客席から、まさに客が溢れんばかり。

 僕もテアトロンへ観に行った経験があるが、なにしろここは“狡い”ほどに感動を呼び込む“装置”なのである。

 今回映し出されていた、陽が落ちて、客席の携帯のライトが蛍の群れのように揺れる光景など、まさしく野外ライブの桃源郷のようであった。東京の人間として思うのは、もし今も、かつてオフコースもやった「田園コロシアム」が存在していたとしたら、ということだ。ここまでとはいかないものの、似たようなことが叶っただろう。もっとも、もしあの施設が存続していたとしても、現在はあの頃以上にPAの騒音問題が立ちはだかっていたのだろうが…。

 ライブで他に印象に残ったのは、ツアー日程もさらに進み、2023年6月の山口だ。半透光性の膜屋根を通し、自然光が降り注ぐ「やまぐち富士商ドーム」の映像は、特色あるものだった。この場面での楽曲は「会いに行く」である。

 ここは訪ねたことがないが、ドームなのに自然光で充たされた不思議な空間であり、「会いに行く」の歌詞の[風に光りが]のあたりが、この会場と恐ろしくシンクロして届いてきた。この場面でこの歌詞と…、というのは偶然か、はたまた編集する上で意図したのか?いつか訊ねてみたいものである。

 コロナの時期であり、病禍がツアー全体に影を落としていたのは事実だ。しかしそれを、強調し過ぎることもなく(褒め言葉としての)淡々としたトーンが保たれていたのも良かった。

 コロナといえば、小田自身が罹患し、療養後に事務所に復帰した時の映像もあった。そこでは敢えてカメラを意識し、みんなへのお詫びの言葉など述べているが、とても小田らしいなと感じたのは、コロナに罹患したのは私のせいということでもあるような、ないような、みたいな前振りとともに、「お互い、つつき合わないように 明日は我が身ということで」と話していたことだ。

 次はライブというよりライブ前の話。コンサートの前に軽くジョギングすることが、本番での喉の調子を上げる、という、ここ最近のルーティンについての話しも興味深かった。実は前回の横浜の終演後、小田の楽屋を訪ねた際、そんな話をしたのである。以前はそのまま歌っていたけど、ここ最近は準備しているんだよ。このベテランは、今更ながらに、そんな話をしてくれたのだ。僕はそのとき小田に、「小田さん、まだまだ伸び代あるじゃないですか」なんて失礼なこと言ったのだが…。

 その時は、てっきり歌う前の準備というのは発声練習だと思っていた。しかしそれが、軽いジョギングだったとは…。大きな発見の瞬間であった。身体というのは様々に循環しているが、それを踏まえた上で、何がどう巡り巡ってどこに作用するか、みたいなことに、常に関心持ってこそボーカリストとしての長寿を得られているのかもしれない。

 最後に。この番組を観て、一番印象に残った場面、いや、一番印象に残ったMCを。それは最後の方に出てくる、学校の帰り道に鈴木康博といっしょにビ-トルズをハモったという話だ。僕が以前、小田から聞いた時は「恋する二人」(「I Should Have Known Better)などを歌っていたということだったが、その時、二人で面白いようにハモれたことが、今振り返れば音楽に熱中していくキッカケだったのではと今回語っていたのである。

 それまで高校時代の話と言えば、3年の時、学園祭に仲間とグループを組んで演奏し、やんやの喝采を浴びた話が有名だった。この成功体験が、その後も小田を音楽へと向かわせたというのが定説であった。しかし、むしろそのことより、鈴木とハモったという、このことのほうが大きかったと今にして想うというようなことを、小田は言っていたわけである。いま改めてこういう話をするのは、いったいどうしてなのだろうか。僕が前に話を聞いたのは90年代終盤の頃であった。当時と今では、鈴木との精神的な距離感も違っていて、だからこんな話をしたのかもしれない。

 でもなんというか、やはり小田が惹かれるのは「ハモること」なんだなぁと、改めて確認した次第である。それは音楽以外に於いても、だ。そもそも上手にハモるには、まずいったん己を抑え、他から揺るぎなくする必要がある。もしそれがド・ミ・ソのミの担当ならば、ドにもソにも脅かされてはならないのだ。それは孤独な作業といえばそうだろう。でも個々が役割を果たし、全体が合わさった時は、到底個人では得られぬ境地へ辿り着く。音楽だけじゃない。チ-ムで何かをしようとする場合に、必ず必要なことなのだ。小田の事務所が資本主義的な発展を旨として組織になったりはせず、ずっと数人のチームであり続けたのもそのためだろう。

 番組の最後に、「みんなでまた会いたいね」という小田からのメッセージが画面に示された。“会いたいね”。この言葉のニュアンスは、みなさんお分かりだろう。さすがにもう、「小田さん頑張って!」、ではないはずだ。もちろん通常のライブを今後も観られたら嬉しいが、それとは別に、ずっと吉田拓郎とは仲良しのようなので、二人がテーブルにお茶とスイーツを用意しての「トーク半分・歌半分」みたいなライブも観てみたい気がする。まあ、あくまで気がする、だけだが…。

 音楽評論家 小貫信昭

Kazumasa Oda Tour 2025「みんなで自己ベスト!!」