★コメントタイプ:ひとり語り

★アーティスト:artist-0001

★対象:diary_02266

「みんなが教えてくれたこと」

 「客電がついて誰も帰らなかったらひとりで何か歌おう、何歌おうか」、舞台を降りた溜まりで、エンディングのC.Gの音楽をぽんやり聞きながら考えていた。絶好調とはいかなかった僕の声に気を遣ってか、「ロボコンのテーマ」が流れたせいか、みんなの拍手がスッとおさまった。「あー、終わった…終わったな」と確認するように自分に言いながら楽屋へ戻って行った。急に大きな拍手が聞こえた。すべてのスタッフたちが僕を迎えてくれたのだ。「なんだ、お前らステージのバラシあるんじゃねえのかよ、こんなとこで何してんだ」と誰にも聞こえないような小さな声でつぶやきなから、みんなが両側から手で作ってくれた細長いアーチをくぐっていたら、折角ふっ切った涙がまたこほれてきたので、そのまま自分の控え室へ飛び込んだ。オレはみんなに涙なんて見せたくないんだよ、ほんとうは。こんな意地悪でステキなスタッフたちがいるだろうか。その二時間ほど前、「woh woh」のワンコーラス目を歌い終えて、今回のツアー、いろいろあったけど自分なりに一生懸命頑張って、頑張って、やっと終わって行くんだなと思った時、自分の書いた次の歌詞が突き刺さってきた。「確かなことなど今何もないけど、ほんとうに大切なことは…」。まったく予想していなかったので不覚にも対処することが出来なかった。「あぁ、みんなに支えられてるんだ、大切なことをみんながまた教えてくれてる」、決してそれを忘れているわけじゃないけど、それがこみ上げてきた。歌えなくなって、止まった。そんなふうになるくらいなら、歌いたくないというくらいの気持ちで臨んでいるのに。どこへ行っても、来てくれたみんなの素直な笑顔があんなにあふれているツアーは経験したことがなかった。僕に応えてみんなが繰り返し何度も何度でも手を振ってくれたライブも初めてだった。体のことも、いつもいつも身内のように心配してくれていた。あんなに大勢のひとたちが「キラキラ!」輝いていた。「きっとキラキラしてみせる」と言った僕の約束を、みんなの想いがいつも乗り越えて行った。ツアー終盤を迎えて、「またきっと会おうね」と言いながら、この後「kira kira!」を越えることはもうほとんど不可能に近いかなと思っていたけれども、あんなにステキな笑顔でみんなが待っているなら、会いに行こう、また新しい時が流れて来るかも知れないと考え始めた。コンサートに来てくれた多くの人たち、来られなかったけどずっと応援してくれていた人たち、ほんとうに心からありがとう。

今だからできること決してそれを忘れないで
この時この二人 ここへは戻れない

2002/08/21小田和正

「想いは尽きず」

 「よかったのかなぁ、あれで…」「何言ってんですか、みんな喜んでくれてましたよ」。スタッフのその言葉に少しだけ慰められて楽屋でほんやりイスに座っていた。一方的なボクの想いにも拘わらず、もう一度あの会場に戻って来てくれたたくさんの人たち、それを快く支えてくれたスタッフたち。どうすれば申し訳ない想いと感謝の気持ちを伝えられるのか分からないうちに終わっていった米子でのライブも、あちこちの病院で受けた点滴のことも、もう懐かしい思い出になってしまった。時間的に考えても簡単に描けるとは思っていなかったけれど、それこそご当地そのものだし、きっとみんなも楽しんでくれるからしんどくてもやってみようと始めたスケッチ。予想をさらに上回ってたいへんな作業だったけれど、今ながめていると、思っていたとおり、いろいろなことがくっきりとよみがえってくる。いちまい、いちまいがすべてのコンサートと重なって思い出となって残った。とにかく、待ってくれている人たちがいるなら、行って、出来るだけ近くで、出来るだけ多くの人たちと接したいと考えていた。「八景島カウントダウン」の雨の花道で見つけたとびきりの笑顔。限られた人たちだけだったけれど、「トーク&ライブ」の時に出会った心から楽しそうな顔。次にライブをやると決まった時、あの笑顔を忘れてステージに立つことは考えられなかった。イベンターとスタッフたちがそれに応えるべく試行錯誤を重ね、会館の人たちを説得してあんなにステキなステージを準備してくれた。チケットが手に入らなくて見ることが出来ない、自分の住んでいる場所の近くではコンサートがないから行きたくても行けない。そんな声を始まる前から聞いていたので、「オイ、『君住む街へ飛んで行く』んじゃなかったのかよ、オレは。なんとか県庁所在地だけでもぜんぶ行こうぜ」とミーティングを重ねた。昨年からの疲れを引きずっている上に、未知の年齢に入ってきたし、夏ころからたて込むだろう仕事も予想されていたので、出来るだけ本数を減らそうとしていたスタッフたちも、やが正義に近いボクの我が儘に屈し、「それじゃあ、体と相談しつつ」と折れた。やや強引ながらも意見の一致をみて、予想のつかない不安はあるけれど、秋に何本かゆったりと追加のコンサートを続けようという予定でツアーは進んでいった。あのキャンセルの少し後くらいまでは。でも思いのほか回復しない体力と、ふくらむ周りの心配と、なんと言っても「もし同じことを繰り返すことになったらまた迷惑をかける」という不安に自分が説得されるような形で「秋はやめておこう…」と、ある日スタッフに告げることになった。もし追加コンサートが実現していたらどれだけの人たちが喜んでくれただろうと無念な想いは尽きなかったけれど、それも含めての結論だった。
 先日の打ち上げでツアースタッフのひとりが「はいつやるんですか」と聞いてきた。「お前いつやるって、やっと終わったばかりじゃねえかよ」「まあそうですけど、早くやりたいっすよねツアー」「…」。コイツの言いたいことは、理屈を越えてよく分かった。きっとみんなの気持ちと一緒なんだろうなと思うと、このツアーで考えてきたことがもう一度よみがえってきた。前に出て行って「さよなら」を歌っている時、ステージ前の方の人たちは後ろ姿じゃなくてちゃんと正面から見たかったんだろうな、どんなに頑張ってもやっぱり3、4階の人たちには最後まで遠かっただろうなと思ったこと。あの歌もこの歌も歌ってあげたいなと思ったこと。それぞれの場所で出会ったたくさんの笑顔、素直に手を振って応えてくれたじられないくらい多くの人たちに、何度でも、いつまでも「どうもありがとう!」と叫びたかったこと。それにしてもどうしてこんなにいっぱい来てくれるんだろうと思ったこと。ご当地、しんどかった時、「楽しくやらなきゃ意味無いじゃん、でなきゃきっとみんなだって見てて楽しくないぜ」と何度となく気合いを入れ直したこと。「 same moon 」のツアーを乗り越えるのは難しいと思っていたけれど、来てくれたみんなと相変わらずステキなスタッフたちの不思議な力のお陰で、今まででいちばん感動的なツアーができたこと。自分が音楽を通してやりたいと多分ずっと思って来たことが、ようやく目に見える形になってきたんだと思ったこと。そのスタッフに「…そうだな」と答えた。またステキな思い出がたくさんできた。全国各地のみんな、ほんとうにありがとう。「とにかく待ってくれている人たちがいるなら」とまた最初の気持ちに戻って行く。どんな歌を、どんな想いで待ってくれているんだろう。準備が出来たらまた飛んで行くよ。君住む街へ。

2002/09/10小田和正

Kazumasa Oda Tour 2005"大好きな君に"