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評伝「空と風と時と 小田和正の世界」追分日出子著(文芸春秋)


美しい歌声とハーモニー、心躍るサウンド。喜びや哀しみのすべてを包み込むような高く心に響きわたる詞の数々。母がオフコースのファンで、車の中でよくカセットをかけ、私と弟はオフコースの歌を子守歌のように聴いて育ちました。以来、私の人生の中にはいつも小田和正さんの歌が流れていたように思います。
編集者となり、いつか作ってみたいと思っていた小田さんの本。その本がついに発売されることとなりました。
小田さんご本人と、オフコース時代から右腕となって伴走している吉田雅道さんにお目にかかることができたのは、2022年7月のさぬきテアトロンでした。小田さんのライブ体験は、1990年10月の横浜アリーナ公演以来、33年ぶりでした。ライブ会場で印象的だったのは、多くのスタッフの方々が、まるで熟練した職人さんのように働いていたこと。一人で何役もこなすというツアースタッフの誠実なお仕事ぶりが、あのスーパーライブになるのだということ。評伝の中では、音楽関係者の証言がたくさん出てきます。小田さんご本人のインタビューはもちろんのこと、オフコースの元メンバーである鈴木康博さん、清水仁さん、大間ジローさん、松尾一彦さんの貴重なお話もたくさん。当時のレコード業界やレコーディング風景から、数々の名曲、ヒット曲がどうやって生まれたのか、その楽屋裏を覗くようです。
鈴木さんは発言を控えたいとおっしゃったものの、実に真摯にお話をしてくださいました。苦しくても自分の音楽世界を追求してきたこと、そして今も音楽が好きだという姿に深い感銘を受けました。
盟友・吉田拓郎さんのインタビューも読みどころのひとつです。拓郎さん、とにかくしゃべるしゃべる。笑いすぎて何度お腹がよじれたことでしょう。そして、オフコースの初期のファンクラブに入っていた作家・川上弘美さんには、コンサートやラジオの公開録画に足を運んだ青春時代を語っていただきました。
 本の中では書ききれなかった、印象に残った小田さんのお話をご紹介します。
「戦争の話は親から聞いたことがなかった。でもある時、オヤジから『日本は戦争に勝つんだと思っていた』と聞いた時はびっくりしたな(笑)」
学生時代に話が及ぶと、「学校にすごく早く行っていた。毎朝、何人かで門が開くのを待っていた。中学高校、大学までそうだった。あいつ行ってんだろうなあ、自分も行かなきゃと。誰にも望まれていない使命感(笑)。一番になりたいとかじゃなくて、規律正しいということが自分に対して別の意味合いがあったのかもしれない」
 横浜公演のMCで、高校一年生の時、鈴木康博さんと二人で学校の帰り道に歩きながらビートルズの歌をハモったエピソードを披露したことについては、「少し前に話すことになれば、別の意味を持ってくるような感じだった。ヤスとの二人のオフコースをもう一回聴きたいという期待が周りにずっと根強くあるから、それに呼応すると声を上げたくなる人が出てくるから。今だったらそんなに大袈裟な話ではなく、本当の青春の断片──他の誰でもなくヤスだったんだ。他にハモれる人間が周りにいなかったし、ビートルズの話を初めてしたのもヤスだったから」と話してくれた。「ふたりで生きている」をライブで歌ったことがありますか?と訊くと、「歌ったことがないなぁ。あの曲は全く手柄を求めないで作った曲だからね。ああいう曲をまた作ってみたいな」
締め切り前に突然、追分さんの「年表を入れた方がいいんじゃない?」というひと言に、「それはいいですね!」と軽い気持ちで引き受け、「小田和正バイオグラフィ」なる年表を作りました。76年にわたる年表は20ページを越え巻末に収録しました。掲載した小田さん楽曲は60曲。2022年の全国ツアーの随行記「LOOKING BACK2022」も6本収録され、本の総ページ数は632ページに!普通の単行本の3冊分のボリュームで、アーティスト評伝としては前代未聞の大作になりました。
カバーを外すと、表紙には「生まれ来る子供たちのために」の楽譜が全面に印刷されています。音符が書いてある楽譜は限られているということで(大体はコードのみの楽譜)、その中から「生まれ来る子供たちのために」を選んでいただきました。
表紙をめくった見返しの部分には、東北大学の卒論にあたる「卒業設計」を2色刷りで入れられたのも、「可能性がある限りやれるだけのことは精一杯やりましょう」と、締め切り2日前にもかかわらず東北大学から取り寄せてくださった船越さんのご尽力の賜物。そして吉田さんは、「あったらいいな」と思うものを四次元ポケットから出してくれるドラえもんのような存在でした。
追分さんとは、20代のころ「週刊文春」のグラビアでお仕事をご一緒にさせていただきました。追分さんの前著の担当編集だった文春文庫部の池延朋子から本の企画を提案され、小田さんの一大叙事詩ともいう作品を託してくれました。
小田さんの歌のように、時の流れを自由に行き来するような物語が、この作品にはぎゅっとつまっています。小田さんの人生を辿るということは、自分の人生を辿ることでもありました。
本書の中で小田さんは、「人はひとりでは生きていけないんだ」と言葉を残されています。この作品も、ひとりでは作れませんでした。多くの人たちのおかげでやっとゴールが見えてきました。この場を借りてお礼を申し上げます。
 編集:文藝春秋 ノンフィクション出版部 伊藤淳子




★コメントタイプ:Q&A形式

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──追分日出子さんが書かれた評伝「風と空と時と」について。あっという間に増刷が決まって現在5刷になったそうです。小田さん自身、この本を読まれてどのように感じましたか?この取材によってあらためて気づいたこと(発見?)などありました?


小田和正:
まぁとにかく恥ずかしいよね。やっぱり自分のことが本になって。あれ?俺、こんなだったっけなぁっていうようなこともあって。でも取材して書いてくれてんだからほとんど間違いないんだろうと思いながら、なんか、昔のことは遠景みたいに遠い…。時間が経ったからかもしれないけれど、なんか小さな、フル画面じゃなくて小さな画面で遠景を見ているような、そういう感じだった。

西浦清:
改めて気づいたこととか発見とか何かありましたか?

小田:
いろんな人が俺について喋ってくれていて、「あぁ、そんなことあったかな?」というようなことがいっぱいあったね。「えー?こいつにも取材行ったんだ」っていうような、親戚を含めて?そういうのにはちょっとびっくりしたね。

西浦:
そういう意味ではいろんな人を網羅してましたね。

小田:
自分が書くよりずっと偏りのないものかもしれないね。

西浦:
自分で書くならそれはそれでまたおもしろいのかもしれないけれど、すごく第三者的な目で見て書かれたんだと。俺も小田さんと随分長いこと付き合わせてもらっているけど、それでも知らないことがたくさんあったな。たくさんの発見があって面白かったですよ。

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