7月15日「ap bank fes ’23」(つま恋リゾート彩の郷)出演
11年ぶり4度目。高校野球の古豪名門校みたいだが、小田さんの「ap bank fes」への参戦歴だ。2007年も出演する予定だったが、台風で中止となってしまった。「ap bank fes」がスタートしたのが2005年なので、考えてみると同フェスとの関係はもうずいぶんと長く、深いものとなっている。
さて「ap bank fes’23」だ。今回は、サブタイトルに「~社会と暮らしと音楽と~」という言葉を付記し、環境問題を中心とした我々が抱える様々な問題を日常的な視点で捉えるということを謳っていた。テーマを掲げ、それに基づく具体的なアクションにつながるフェスとしてすでに多くの人たちから認知されている「ap bank fes」の確かな歩みがこのサブタイトルからも感じられる。
そして、コロナの期間を経て、ホームグラウンドとも言えるつま恋で開催されるのは実に5年ぶり。まさにフェスとしての第二章の幕開けと言ってもいい記念すべきタイミングだ。そういうこともあって、「今回はぜひ小田さんに出演していただきたい!」という熱烈なオファーをしたとのこと。聞くところによると、ブッキングは小林武史さんと櫻井和寿さんを中心に、事務局のスタッフも一緒になって進めるのだそうだ。
3日間開催の初日、小田さんは7月15日(土)のステージに出演したわけだが、この日は雲があって多少過ごしやすくはあった。とは言え炎天下には変わらず、参加したオーディエンスは各自に熱中症対策を怠りなくその瞬間を待っていた。ちなみに、全体の開演が15:00に設定されていたのは、やはり昨今の猛烈な気温上昇による体調管理の難しさを考慮してのもの。夏場に野外で開催されるフェスはそれぞれにこうした対策が求められる時代になった。「ap bank fes」が開催された2005年から考えても、この気温の変化はちょっと驚くばかりだ。
オープニングで登場したBank Bandの1曲目は、「ap bank fes」のウェルカムソングとなっている「よく来たね」。その次に披露されたのが「緑の街」だった。このカバーも「ap bank fes」ではお馴染みとなっている。最初に披露されたのが、2008年の同フェスで、だった。前年が、冒頭にも触れたとおり小田さんの出演するはずだった日が台風で中止となってしまった。ということからのストーリーとして、翌年に「緑の街」をカバーしたのかな、なんて想像をしてしまう。今回もほぼオープニングナンバーとしての位置で披露してくれたというところに、Bank Band、そして「ap bank fes」からのリスペクトと愛を感じてしまう。
小田さんの登場は、ゲストアーティストのトリという位置で、陽がかなり傾き、過ごしやすくなった頃合いだった。
「Bank Bandのメンバーも大好きで、この方とリハをするのも楽しいです。うれしくなっちゃいます。尊敬するアーティスト、小田和正さん!」
と櫻井さんが愛情たっぷりに紹介して、エレキギターを提げた小田さんが登場。
「どうも!ずっと楽しみにしていました」という挨拶に続いて、不意をついた質問が櫻井さんに向けられた。
「櫻井くんいくつになったの?」
「53です」
たったこれだけのやり取りではあったが、なんだろう、果てしなく幸福な瞬間に思えた。それはやっぱり音楽が世代を超えてちゃんとつながっているんだなということを実感することのできた光景だったし、そしてまた、この先にもこうしたつながりが約束されているのだろうなと思えたからだ。小田さんの着ている白いTシャツの真ん中には「ap」の文字が。てっきりスタッフTシャツか何かだと思っていた。後になって事務局の人に確認したら、「いや、あれは小田さんが自前でご用意してくれたものみたいですよ」という答えが返ってきて、幸福感がぶり返したのを憶えている。
1曲目は「the flag」。イントロのピアノが鳴り響くとフィールド全体から自然とクラップが打ち鳴らされる。1番を小田さんが、2番を櫻井さんが歌唱するという豪華コラボレーションが実現。ここ最近の「apbank fes」では、櫻井さんがゲストアーティストのコーラスで全面的に参加するということはあまりなく、それだけでもかなり特別なステージということが言える。
2曲目に披露したのは「so far so good」。このチョイスにファンはかなり驚いた人も多かったのではないだろうか。今回の選曲はすべて小林さん、櫻井さんを中心としたBank Bandが行っている。小田さんは彼らに一任した格好だ。どうしてこの曲を選んだのか?その理由は小田さんのステージが終わった後、Bank Bandのパフォーマンスのなかで語られた。
「先ほど小田さんが披露してくれた曲のなかにこんな歌詞があります。〈誰かを幸せに出来るとしたら きっとそれがいちばん幸せなこと〉っていう。今日僕が一番響いた言葉です。共感した言葉です。これは僕だけじゃなくてきっと小林さんもBank Bandのメンバーも出演してくださったアーティストの皆さんも同じように思ってくれているんじゃないかと思います。僕らの歌で誰かが幸せな気持ちになってくれたら、こんな幸せなことはありません」(櫻井)
きっとそこに「ap bank fes」の目指していることの中心があるということなのだろう。
続く「たしかなこと」の前にはこんな裏話を小田さんが披露してくれた。
「ずっと前にこの曲を『ap bank fes』でやってくれることになっていたんですけど、台風で中止になったことがあって。その時にギターの小倉(博和)くんなんかが夜にギターを持って(宿泊している人たちの部屋を訪ねて)この曲を歌ってくれたっていう話を聞きました。本当に感動しました」
小田さんと櫻井さんの歌声が重なり合って一本の糸を紡ぐように過去から現在につながる時間、そして夕闇から夜に移りゆく瞬間を特別なものにしていった。
キーボードの前に座った小田さんの演奏に合わせて櫻井さんが歌い出した。ラストは「生まれ来る子供たちのために」。これもやはり「apbank fes」らしいと言える選曲だ。2005年にBank Bandの初めての配信シングルとなった曲だ。すべてにきちんと意味があって、届けるべき人たちが目の前にいて、そしてみんなで一緒に紡いでいく物語がある。この歌を聴きながら、ここからまた何かが始まっていく予感をひしひしと感じた。
「どうもありがとうございました」
小田さんは静かにステージを後にした。その背中を見送りながら櫻井さんが言った。
「小田さんでした。いくつ?って聞かれて、53って答えましたが、小田さんいくつですか?って聞けばよかったなってものすごい後悔しています(笑)。いくつになっても、小田さんみたいに音にも人にも謙虚になれたらいいなって、小田さんの背中を見て強く強く思いました」
すげえ。筆者の隣にいた大学生くらいのカップルの男の子の方が思わず声を漏らした。そしてすぐスマホに指を走らせた。たぶん彼がググったのはこの4文字だったに違いない。「小田和正」──。確実に何かが伝わった。そんな誰かにとっての道標になるようなステージだった。
フリー編集者・ライター 谷岡正浩
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