★コメントタイプ:対談形式

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★対象:diary_02703

「建物探訪」渡辺篤史氏と対談


渡辺篤史:
小田さんは、どんな住宅や建築に魅力を感じますか?

小田和正:
具体的にこんな形というものはないですね。でもあまりに作家性が強いものはどうかなあと思う。一見すると作家性はないんだけれど、そこに何年か暮らしているうちに「ああ、こういうことだったのか」「こんなことまで考えてくれていたんだ」と気づくような配慮が仕込まれている、そんな建物や住宅だったらいいなと思いますね。

渡辺:
やりすぎない、ということでしょうかねぇ?達人の城ですね。

小田:
曲づくりも似たようなところがあるんですよ。はじめからヒットを狙ったり、緻密に構築しすぎたり、いろんなものを詰め込んだ曲は、何度か聴いたり歌ったりするぶんにはいいんだけど、ある時から自分自身で飽きちゃう。20年、30年飽きない曲は、こうした自己主張みたいな部分を超えたところで生まれているような気がしますね。

渡辺:
そういえば小田さんは、全国ツアーを回っているときは「ご当地紀行」と称して、いろいろな名所や街を訪れていますよね。

小田:
ええ。コンサート会場だけど、ときどき自分たちがいまどこにいて何をしているのか、わからなくなってしまうことがあるんですよ。せっかくいろんな都市を回っているんだから、その土地の人ともっと気持ちを共有したいじゃないですか。

渡辺:
なるほどねえ。

小田:
あとで思い出したときにも、街並みとか人との出会いのほうが印象に残っていたりするんですね。そんなこんなで「ご当地紀行」を始めたんだけど、実際には取材に丸一日かかるし、ネタも探さないといけないし、けっこう大変なんです(笑)。

渡辺:
名所旧跡地以外に地の商店街も訪問していますよね。

小田:
地方の商店街の多くはシャッターが閉まったままでね。寂れたところが多いのには驚きますよ。でも多くの場所を訪ねるうちに、なんとなくわかってきたんです。行政とか知事がいい街にしようと頑張っているところは、人も街も明るいし、努力の痕跡が見てとれるんですよ。やっぱり、コミュニティって大切なんだって。

小田:
さっき飽きない家という話が出たけれど、街も同じじゃないかな。無駄とかゆとり、自然を取り込んでいくことが大切なんだと思いますね。

渡辺:
ああ、なるほどね。

小田:
でも、ほんとうに重要なのは、建築家でも都市計画家でも、それを口に出してはいけないということなんだよね。クライアントや市民に対して、「ここはゆとりスペースです」とか「ここに自然を取り込みます」とか言葉にしてしまった途端に違ったものになってしまうから。相手に気づかれないように余白を盛り込んでおくことが理想的でしょうね。

渡辺:
哲学的ですね。あくまでも「結果」ということでしょうか。

小田:
そう。曲を書くときも、例えば、「いつもそばにいる」という気持ちを伝えたいとするでしょ。そういうときは、そのままの言葉で表現してしまうんじゃなくて、歌詞全体や曲全体でそれを感じ取ってもらえたらなと考えながらつくるんです。曲を聴いてくれた人と、結果的に「いつもそばにいる」というメッセージが共有できればいいなと。それにそばにいてほしい人は、恋人だったり、子どもだったりって人によって違うじゃない?そういう表現方法をとることで、曲は作者の手を離れて育っていくんだと思いますね。

渡辺:
「作者の手を離れて育っていく」、いい言葉ですね。

『渡辺篤史の建もの探訪BOOK』(朝日新聞出版刊)

KAZUMASA ODA TOUR 2011「どーもどーも その日が来るまで」